279.鉄絵茶碗（黒田陶々庵箱）

魯山人が最も好んだ麦藁手の文様を、鉄釉によって描き出した珍しい抹茶碗。麦藁手の意匠は蓋物茶碗などに多く見られるが、抹茶碗として制作された例は極めて稀少であり、魯山人作品の中でも特に評価の高い一品である。鉄釉特有の深みのある色調と力強い筆致が相まって、抹茶の緑を引き立てる豊かな景色を生み出している。手に包み込んだ瞬間に伝わる土の温度と造形の確かさは、用の美を追求した魯山人の美意識を如実に示している。茶席に置くだけで空気を変える、存在感と稀少性を兼ね備えた名品。