機能や形状
材質や地域
本作は、「八ッ橋」の意匠を独創的な器形へと昇華した、魯山人の造形感覚際立つ向付である。八橋は、『伊勢物語』の「東下り」に登場する三河国八橋に由来し、川が蜘蛛の手のように分かれて流れるところに八つの橋が架けられていたことから、その名が付いたとされています。また物語では、その地に咲く燕子花を前に「かきつばた」の五文字を各句の頭に置いた歌が詠まれており、八橋と燕子花は古くから日本の文学や美術の中で親しまれてきた意匠です。本作では、そうした八橋の意匠を絵として描くのではなく、器そのものの形として表しているところに大きな面白さがあります。 長方形を基調としながら、器の両側を互い違いに張り出させ、内側にもその輪郭に沿った段差を設けることで、橋板を組み渡したかのような幾何学的な造形をつくり上げています。直線を主体とした明快な構成でありながら、手仕事によるわずかな揺らぎが残され、端正さの中にも柔らかな味わいを感じさせます。そこに掛けられた古瀬戸釉も、本作の大きな見どころです。飴色から褐色、さらに深い黒褐色まで、一客ごとに釉調が大きく異なり、釉の流れや溜まりによってそれぞれに豊かな景色が生まれています。五客を並べることで、同じ八ッ橋形が繰り返される造形的な面白さと、一客一客異なる古瀬戸釉の表情を同時に楽しむことができます。また、向付として見れば、この独特な輪郭は単なる造形上の趣向にとどまりません。料理を盛ることで、直線的な器形と料理の柔らかな形や色彩が響き合い、余白を含めて一つの景色をつくり出します。器は料理を盛ってこそ生きるという魯山人の美意識が、この大胆な八ッ橋形にもよく表れています。古典的な八橋の意匠をそのまま写すのではなく、器の形そのものへと大胆に置き換え、さらに一客ごとに異なる古瀬戸釉の景色を与えた本作は、古典への深い理解と自由な造形感覚、そして料理の器としての美意識が一体となった、魯山人ならではの向付である。高台に釘彫サイン「ロ」。複数小さな金繕いあり(銀座黒田陶苑)
管理No.109
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